日々の外来診療で、低血圧について質問や相談を受けることがしばしば在ります。
医学的に心配が無いと思われる『血圧の低い健常者』の方までが、自分は低血圧症だからと決め付けて、日常生活が消極的になっていたり、病的関連は無い些細な出来事まで、低血圧と結び付けて考えてしまい、必要以上に悩まれることも多いようです。

低血圧症とは

一般に治療の対象となる病的な低血圧状態を『低血圧症』と言い、臥位における血圧が慢性的に100mmHg以下で、かつ病的な症状を伴なう場合を言う。
心臓疾患(心筋障害、弁膜症、心膜炎等)・呼吸器疾患(結核、喘息、肺気腫等)・内分泌疾患(糖尿病・甲状腺機能低下症等)・神経疾患などの『基礎疾患』を原因として生じるものと、明らかな原因が認められないものがある。

低血圧症の症状は

動悸、めまい、立ちくらみ、失神、肩こり、易疲労感、疲れ目、頭重感など不定かつ多様であり、多様であるがために、常に体調や健康状態に不安を感じ、心気症的状態におちいることも多い

低血圧症の日常生活上の注意

  1. 規則正しい日常生活を守る
    朝方体調が悪いことが多く、夜更し型の生活習慣に陥りやすい。朝型の規則的生活リズムを保つことが重要である。
  2. 足腰を鍛える
    適度な運動で足腰の筋肉や下肢の静脈の収縮力(ポンプ機能)を高め、心臓に血液が還流しやすいようにし、血圧の低下を防ぐ。特に起立性低血圧症といわれる、立ちくらみ症状の強い人に有効である。
  3. 気分転換の場や趣味を持つ
    多彩な症状に対する不安に支配されないよう積極的生活を心掛けること。
  4. 乾布や水タオルによる皮膚鍛練
    皮膚の鍛練は自律神経の対応力を高め、末梢循環が改善し、心臓への血液還流がうながされる。

低血圧症の治療法

まず上記の生活上の注意事項を実行し、症状が軽快せぬときは、自律神経調整剤や昇圧剤を内服する。さらに心気症的状態が強いときは、心療内科的な加療を要する場合がある。

治療を要さない低血圧の場合

低血圧であっても、原因となる『基礎疾患』を認めず、病的症状も無い場合は、所謂『血圧の低い健常者』であって、治療の必要は無く、むしろ心臓血管系の成人病にはなりにくく、悲観する要素はない。