様々な成人病を引き起こす原因となる糖尿病について、お話致します。
糖尿病の病態、原因と誘因、合併症と症状、診断、治療と管理、食事療法、運動療法、薬物・インスリン療法などの内容を御一読下さい。

糖尿病とは何か

糖尿病は単に血液中の糖分(血糖値)が高くなったり、尿に糖が混じるだけの病気ではありません。それは糖尿病の結果として生じるひとつの現象に過ぎず、糖尿病の本質はもっと別の処にあります。

簡単に言えば『糖分の利用障害によって、全身の細胞が飢餓状態に陥り、その結果として生じた多臓器障害により、様々な異常が引き起こされる全身的症候群』です。

糖分は人間を形作るひとつひとつの細胞にとって最も効率の良いクリーンなエネルギー源です。

腸で消化吸収された糖分は、毛細血管から個々の細胞に運ばれ、細胞膜を経て細胞中に取り込まれ、生物化学的に分解される過程で、エネルギーが取り出され、最終的には水と二酸化炭素となり、尿や汗として、あるいは呼吸により体外に排泄されることになります。

いわば糖分は、石油や原子力エネルギーのように有害な排気ガスや廃棄物などの燃えカスを残留しない最も生理的かつ清潔な生物学的エネルギーといえます。この糖分の細胞中への取り込み、分解、エネルギーの取り出し、排泄などの一連の過程を糖代謝と言いますが、この糖代謝を円滑に手配するマネージャーが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンです。

糖尿病ではこのインスリンの量が不足したり、作用が妨害されることにより、糖代謝が障害され、細胞がエネルギー不足となり、その結果利用されない糖分が血液中に溢れ、尿中に漏れ出で来るわけです。

さて糖分を断たれ飢餓状態に陥った細胞は、窮余の策として蛋白質や脂肪を分解しエネルギーを得ようとします。この蛋白質や脂肪はいわば細胞や組織を形造る屋台骨に当たります。

たとえれば、糖分という収入を失い、しかたなくマイホームの畳や柱を燃やして暖を取ることに等しく、またこれらのエネルギー源はケトン体と呼ばれる生体にとって有害な燃えカスを残します。

また脂肪組織から血液中に脂肪が動員され、二次的な高脂血症が生じたり、高血糖による血液浸透圧の上昇により細胞から水分が吸い上げられ細胞内脱水を起こすなど、様々な悪循環が生じます。この様に糖尿病は、インスリン作用の低下、糖代謝異常、細胞飢餓、有害物質の体内蓄積、多臓器障害、二次的悪循環などを本質とした全身的疾患なのです。

糖尿病の原因と誘因

糖尿病はこのインスリンの量が不足したり、作用が低下あるいは阻害されることにより生じます。

糖尿病の発症形式は様々ありますが、一般的に成人病として発症してくる糖尿病は、遺伝的素因(例えば血縁者に糖尿病者が多いなど)を背景として、肥満、運動不足、精神的ストレス、妊娠、感染症や他疾患の影響等を誘因として生じると考えられています。

その他アルコールの多飲、ウイルス感染、癌などによる直接的膵臓障害によるもの、肝硬変や内分泌疾患に引き続く二次的なもの、遺伝的要素が強くきわめて若年から発症するものなどがあり、発病の予防や治療に当たっては、個々の発症要因を十分考慮する必要があります。

糖尿病の症状と合併症

糖尿病は、全身の細胞の飢餓状態、細胞内脱水、有害物質の体内蓄積に起因する多臓器障害、二次的な栄養代謝異常等により様々な症状と合併症を引き起こしますが、代表的なものを挙げてみます。

  1. 高血糖による脱水、糖分やミネラルの体外喪失、有害物質の体内蓄積に起因する症状
    口渇、多尿、体重減少、易疲労感、昏睡等
  2. 血管障害に起因する合併症
    動脈硬化、高血圧、脳血管障害、狭心症、心筋梗塞等
  3. 網膜障害や白内障に起因する症状
    眼底出血、視力低下等
  4. 神経障害に起因する症状
    自律神経失調症、手足のしびれ、胃腸障害、性欲低下神経痛
  5. 抵抗力の低下に起因する易感染性による合併症
    感冒、結核、水虫、おでき等にかかりやすくなる

糖尿病の診断

糖尿病の診断には血液中や尿中の糖分の値(血糖値および尿糖値)が用いられることはご存知と思います。

これらの値が基準値を明らかに越えて高い場合、糖尿病の診断は容易ですが、これらの値は検査時点の食事摂取や体調等によって変動があり、糖尿病であっても必ずしも高値を示すとは限らず、またその逆に、わずかに基準値を上回っても、直ちに糖尿病と断じられぬ場合もあり、診断に当たっては慎重な判断を要します。

したがって、健診や症状で糖尿病が疑われた場合、通常「糖負荷検査」といって、空腹時に75gのブドウ糖液を飲んでいただき、その前後の血糖値、尿糖値、インスリン値等の変動を測定したり、糖尿病に特徴的な身体的異常や合併症の有無を調べるなどして、総合的に診断をする必要があります。

また「耐糖能障害」あるいは「境界型糖尿病」といって、糖負荷検査において、直ちに糖尿病と診断できる程ではないが、正常の基準値を越えた血糖値の変動が認められる場合があり、このグループでは、将来糖尿病状態に移行したり、動脈硬化や心臓血管疾患など糖尿病に類似した合併症に罹患する可能性が高く、前述したような糖尿病の発症誘因を避け、定期的な検査を受ける必要があります。