糖尿病の治療

糖尿病の治療の要点は以下に示す通りです。

  1. 食事療法
    栄養素の適性配分、総エネルギー量の制限、規則正しい食事によって、糖代謝と栄養状態の乱れを是正し高血糖を予防する。
  2. 運動療法
    適度で規則的な運動で、細胞の糖代謝活動を促進し円滑にする。
  3. 経口糖尿病薬の利用
    食事や運動療法で不十分な場合、インスリンの作用を促進する内服薬を使用する。
  4. インスリン療法
    インスリン分泌の欠乏が著しい場合、糖尿病の急激な悪化や合併症により、全身状態が不良な場合等に注射でインスリンを補充する。
  5. 合併症の治療
    糖尿病により引き起こされた様々な合併症を適切に治療する。
    くわしくは次回に触れますが、どのような場合でも、最も基本となるのは食事療法であり、これ無くして糖尿病の治療は成り立ちません。

食事療法

糖尿病食とは、難しい特殊な治療食では有りません。

糖尿病の食事療法の基本的考え方とは、「個々の食生活の歪みを正し、人間本来の理想的食生活に立ち返り、それを実践すること」です。言い換えれば、皆様個々の食生活の在り方をまず省み、過食や栄養の偏り、飲酒等、糖尿病の発症誘因を避けること。

そして、個々の体格と日常労作に応じて適正なエネルギーと栄養素を摂取し、規則正しい食事習慣を実践することです。この言わばあたりまえの「食生活の理想」を守り抜くことが、即ち糖代謝と栄養状態の乱れを是正し高血糖を予防するとともに、健康な細胞活動を維持するための治療となるわけです。

糖尿病食の考え方は、糖尿病の方や健常者の別なく、人間が成人病を予防し健康的な生活を営むための、「理想的食生活の指針」でもあるわけですから、患者さんだけの特別な食事と考えずに、家族ぐるみで取り組むことがより理想的でしょう。

下記に食事療法の原則を述べますが、年齢、合併症の程度、内服薬やインスリン使用の有無等により異なることもありますので、詳しくは医師の指導を受けて下さい。

  1. 適正なエネルギー摂取
    1日当たりの適正なエネルギー所要量を、個々の理想体重と日常労作より換算し、過不足なく摂取することを原則とします。

    • 理想体重=(身長-100cm)×0.9
    • 労作別、体重当たりのエネルギー所要量の目安
    • 軽い労作(一般事務等)25-30kcal/kg
    • 通常労作(主婦・教員・看護婦等)30-35kcal/kg
    • 重い労作(農業・建設業等)35-40kcal/kg 一日のエネルギー所要量=理想体重×体重当たりのエネルギー所要量
    • 例えば身長160cmの事務職の方の一日エネルギー所要量は
      (160-100)×0.9×25=1350kcalから
      (160-100)×0.9×30=1620kcalとなります。
  2. 栄養素の適正配分
    1日エネルギー所要量の範囲内で、糖質(50ー60%)、蛋白質(20ー30%)、脂質(20ー30%)の割合でエネルギーを配分し、野菜等でミネラル、ビタミン、食物繊維を十分に取ります。詳しくは市販の食品交換表やガイドブックを参考にして、献立を立ててください。
  3. その他の原則
    • 食事は一日三回を原則とし、夕食にエネルギー摂取が片寄り過ぎぬよう配慮し、朝食や昼食に重点をおくこと。
    • エネルギー所要量と栄養素の配分を守れば、原則として食べて はいけないものはありません。
    • アルコールは栄養素に乏しい割りにはエネルギー量が高く、習慣的飲酒は食生活を乱す素になります。エネルギ所要量の範囲で、ほどほどにたしなむ程度にすべきでしょう。
    • 低塩、うす味を心掛けることは高血圧や動脈硬化等、糖尿病の合併症を予防するためにも必要です。

運動療法

  1. 目的と意義
    細胞活動を活発にし、細胞の糖吸収、エネルギーへの転化、利用を促進し、欠乏あるいは低下したインスリン作用を補助し増強するとともに、心・肺・筋肉機能を維持、増進し、ストレスを解消します。
  2. 運動療法の適応
    運動療法を安全に行なうには、食事療法、内服薬、インスリン療法等で血液、尿検査の状態が安定し、心・血管障害、感染症等、不安定な合併症が無いことが条件となります。
  3. 運動の種類と運動量
    患者さん個々の病状や運動能力により異なりますが、次の様な原則が適切です。

    • 体を鍛えるための過激な辛い運動ではなく、健康を維持するための、毎日手軽に楽しく習慣的に続けられる運動であること。(例えば、散歩、速歩あるいは軽いジョギング、ダンス、舞踊、リズム運動、太極拳、ヨーガ等を毎日の基本とし、ゴルフ、ゲートボール、ゆっくりした水泳、サイクリング等を時々楽しみながら行なうなど)
    • 朝夕2回程度、食後1ー2時間の内に、15ー20分位行うこと
    • 自己の運動能力の50ー60%の強度に留めること。運動の強度の決め方には、様々な方法があるが、例えば運動時の酸素摂取量とほぼ比例する心拍数を目安にすると、次の式で60%強度の運動量が計算できます。
    • (220ー年齢ー安静時心拍数)×60/100%+安静時心拍数
    • 例えば60歳で安静時心拍数が1分間70回であるときは、
      (220ー60ー70)×60÷100+70=124となり
      1分間124回の心拍数になる運動が60%の強度の運動量ということになります。

但しこの式はあくまで、心臓病や高血圧等、運動に支障のある合併症が無い人の目安であって、詳しくは、医師の指導を受けて下さい。

経口(内服)糖尿病薬療法

インスリン分泌の著しい低下が無く、直ちにインスリン注射治療を必要としない糖尿病で、食事や運動療法のみでは血糖値のコントロールが困難な場合に、インスリンの作用を促進する内服薬を使用します。
但し、重篤な合併症や感染症に罹患していたり、大手術を受ける時、妊娠や授乳中の場合等は下記のインスリン療法を積極的に選択します。

インスリン注射療法

次の様な場合がインスリン注射療法の適応とされています。

  • インスリン分泌の低下した「インスリン依存型糖尿病」の場合
  • 糖尿病性昏睡状態またはその恐れのあるとき
  • 短期間に多量の栄養補給を要するとき
  • 成長期にあるとき
  • 妊娠中のとき
  • 重症合併症を認めるとき
  • 手術を受けたり感染症にかかったとき
  • 食事・運動・内服薬療法など他の治療法が無効の場合

糖尿病の話を終わりますが、正しくその本質を理解され、適切な療養生活を送られるよう念願します。